岩倉寿先生と額
この「秋果」と名付けられた作品は1989年頃の作。
先生の作品は入れる額が難しくいつも苦慮していました。作品が出来てから額をオーダーしていては展覧会に間に合いませんので、出来上がる前に額を準備しておかねばなりません。本当は出来上がった作品を見てから額装を考えたいと常々思っていました。そこで、先ず額をつくりそれに合わせて絵を描いもらえたらと思いましたが何しろ相手は手強い岩倉寿先生の事ですから、話をするタイミングを図らなければなりません。話せずに帰ったこと二度、やっと三度目の正直ではありませんが、今だと思い恐る恐る趣旨を話ましたら、意外にあっさりを受けていただくことになりました。帰り道には安堵と喜びがわいてきました。
さあどこに額を頼んだら良いのか悩んだ末、神田にある弘雅堂さんにお願いいたしました。仕舞屋のような感じの小さな店構えですが良い仕事をなさっていました。弘雅堂さんは洋額屋さんで岩倉先生の作品についてはご存じないので僕がこういう風にして欲しいと大まかに伝え、あとは親父さんのセンスにお任せいたしました。出来上がった額がこの額です。先生宅を訪ねて、額をお預けして作品の出来上がるのを待つこと数か月。ご覧のようにいつものような微妙なところは薄れ、色や形が前にでた作品に仕上がっていました。先生は大変困ったそうです。何回も額に入れて見直していると、額に引きずられると、こぼしておられました。僕自身はこの企画はうまくいったと内心思っていましたが、帰り際に先生がおっしゃった。
「こんなことはこれっきりにしてや」