一雄くんは実直で、そして、誰よりも美の信奉者です。
一足先に往った茂樹くんと三人はウマが合ってよく呑んだ。
政治、経済の話にヒートアップし、自然の生態の面白さに夢中になり、描いた写生の裏話をよくした。
叱られるが人の絵を酒の肴にしても呑んだ。消沈の時もあって、うまい酒ばかりではなかった。
隠し事なく腹をわって人生を語りあった。
村田画廊が開廊して四十年になると聞き、色んなことが思い出される。
茂樹くんがなくなるまで二人で、いや一雄くんと三人で二十数年「不易流行展」を続けた。
小品なのに、毎回、プレッシャーがかかった。芸術の高さを求められ、売れないといけない重圧も正直あった。
硬派とも言えないが、根は真面目な三人です。
それでも、過ぎてしまえば、人の営みは、ほろ苦くペーソスであったように思えてきます。
世阿弥は風姿花伝の中で、老いたら脇で光れといいます。
脇で光れとはどういうことでしょう。
もうこの年です、身の程も知り妙な覚悟も出来ています。
いまこそ邪心なく絵を楽しむことでしょうか。
「あんた、もう理屈はええから、一点でも早よ描き、ほんまに時間ないで」と茂樹くんが笑っているかもしれません。
2023年5月 竹内浩一
【注:一雄くん/村田画廊 村田一雄 茂樹くん/画家 村田茂樹】
村田画廊は1983年河原町通り竹屋町上ルに開廊いたしました。
その後2008年に松ヶ崎(現在地)に移転し40年を迎えました。
これもひとえにお客様や作家の皆様、百貨店各店それに同業者の方々の
ご支援の賜物と深く感謝いたしております。
私は1969年に東京の相模屋美術店に入社、
店主であった原田吉蔵社長や先輩諸氏から
美術品というものの価値や美術業界の仕組みなどを一から教えていただき、
何ものにも代えがたい経験をさせていただきました。
10年以上務めることを条件に入社し1982年に退社するまで13年間お世話になりました。
竹内先生とのお付き合いは相模屋美術店時代の私26歳、先生33歳の時、
以来49年の長きに亘ります。
この度 ―40周年記念―竹内浩一展を開催する運びとなりましたことを大変嬉しく思っております。
竹内先生にはお忙しい中御引受けいただき感謝いたしております。
村田画廊 村田一雄